はなのうきばし

徒然なるままに、そこはかとなく。

ヒカルの碁

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「ヒカルの碁」を読みました。

私が小学生くらいの時にヒカルの碁が放送されていたので、アニメは見たことはあったのですが内容はあまり覚えていませんでした。

思えば当時の平日18時、19時台は「ヒカルの碁」もだけど、「テニスの王子様」「ワンピース」「BLEACH」などジャンプアニメが夕方に放送されてる時代でした。

 

読み終わった後の満足感がかなりあったので、感想の記録を残しておこうと思います。

 

【目次】

 

あらすじ

小学6年生の進藤ヒカルがおじいちゃんの家の蔵で見つけた碁盤をきっかけに、平安時代の天才囲碁棋士である藤原佐為に憑かれるところから物語は始まります。

ヒカル自身は囲碁のルールも全く知らず、興味もないのですが、佐為をはじめとする様々な棋士たちと触れ合う中で自身も「神の一手」を目指す棋士へと成長していくという物語です。

この作品は原作と作画それぞれ担当が分かれており、「Death Note」の小畑健さんが作画されています。

 

 

「囲碁」という一見地味な競技をテーマに描かれた作品ですが、物語はめちゃくちゃアいです。囲碁のスキルやセンス、そしてなにより勝ちにこだわる姿勢には心を打たれ、まるでスポーツ観戦をしているかのような迫力がありました。登場人物は皆、囲碁に人生を賭けている人達ばかりです。

 

ヒカルは初登場時小学6年生で、言動も容姿も子供。なんなら少しヤンチャで幼すぎるような気さえする男の子です。その彼が囲碁を通して成長し、最後は高校生くらいになるので凛々しく貫禄のある棋士になります。

 

ヒカルの小学生~高校生の 間の話なので、関わる人物も10代の子たちが多く、ヒカルの最大のライバルも同じ年の男の子(塔矢アキラ)です。しかし、囲碁は年齢が関係ない競技なので様々な年代のアマ・プロ棋士とも勝負ししのぎを削りあいます。囲碁の世界には年齢は関係ないので自分よりはるか年上の人たちばかりの世界で生きる子供たちは、年相応の考え方やまっすぐさはあるものの、大人でも目を見張るプライドをかけた対局を見せてくれます。

 

そしてヒカルに憑いている佐為ですが、平安時代の貴族のような風貌ですが、コミカルな動きをしとても可愛いです。佐為自身も生前は神の一手を追い求めていた棋士なので、幽霊となった今でも神の一手を目指しています。

 

この漫画のすごいところは、囲碁のルールをほとんど説明しないところだと思います。最後まで読んでも囲碁を打てるようにはなりません。1ミリもルールは分からないままです。それでも、読み終わったころには囲碁を打ちたくなることでしょう。ルールの説明がなくても、読者を引き込む疾走感がありました。

 

原作は20年以上前の作品なので、読んでいると時代(パソコンが一家に1台なく、ネットを使える人が増え出したくらいの頃)を感じますが、ストーリーは今読んでも色褪せることはないです。

 

私は子供時代にヒカルの碁をリアルタイムで知っている世代ですが、この作品をぜひ今の若い人たち(20年前にまだ生まれていない人たち)に読んでもらって、そしてできれば感想を聞きたいなと思いました。

 

ネタバレありの感想(印象に残っているところ)

 

・プロ試験の対伊角戦

ヒカルは塔矢アキラを追ってプロ棋士を目指し、プロ試験を受けることになります。プロ試験は棋院の院生*1や一般の受験者と対局し、上位3人に入ると合格というものです。ヒカルは院生なので、日ごろは共に切磋する仲間と試験で争い勝ち残らなければいけなくなります。

その中でも伊角慎一郎との対局は心がざわつくものでした。

 

伊角さんは院生の中では最年長(18歳)で棋力*2も高いのですが、なかなか試験に受からず、院生としてプロ試験を受けられるのは最後の年となっていました。

 そんな焦りから並々ならぬ思いを抱いて試験に挑みますが、ヒカルとの対局で反則をしてしまいます。一度碁石を盤に置いたら動かしてはいけないというルールがありますが、焦りからそれを破ってしまいます。ただ一瞬の出来事だったのでヒカルは実際に反則が気のせいかどうかと戸惑い、伊角さんはバレてなければ続けれるのではないかと思ってしまい、両者が自身の良心と葛藤します。ですが、罪悪感と情けなさから伊角さんが反則を自白し、ヒカルの勝利となりました。

 

この時の両者の一瞬の戸惑いに臨場感があり、特に後がない伊角さんの気持ちは痛いほど伝わりました。ズルい考えが出てしまうのも仕方ないのかなと思えてしまう程で、心が痛くなりました。

伊角さんはこの試験では不合格となりますが、のちに伊角さんにフォーカスを当てた話もあり、このわだかまりの残る対局も消化されたので良かったです。

 

・佐為の最期

ずっとヒカルに憑いて囲碁を指導しながらプロになるまで見守ってきた佐為ですが、ヒカルこそが神の一手を極めるものだと気づき、自分が現代に現れた役目を悟った後消えてしまいます。だいたい物語の中盤くらいです。

その消え方が、感動の最期というようなものではなく、自らの残された時間がないことを悟りヒカルと一局打っている間にすっと消えてしまいます。

疲れていたヒカルは対局中眠ってしまい、気づいた時にはもう佐為がいなくなっていた、という状態でした。あんなに一緒に頑張ってきた佐為が一瞬で消えてしまい、しかもその後もう一切登場しません。これには言いようのない喪失感を覚えました。

佐為が消えるシーンはとても儚く美しく描かれており、それもまた悲しみを誘いました。 

 

・ヒカルが独り立ちする

佐為が消えてしまった後、ヒカルは碁を打つことを辞めてしまいます。しかし、伊角さんから過去との決別のためにどうしても一局打ってほしいと頼まれ再び碁と向き合うことになります。渋々打ち出したにも関わらず、対局に没頭し、そして自分の打った一手が佐為と同じ一手だと気づきます。佐為は消えてしまったけども、自分の打つ囲碁の中に佐為がいるのだと分かり、プロ棋士として佐為がそばにいない状態で再び歩みを進めていくことになります。

 

別れもないまま佐為が突然消えてしまい、ヒカル同様読者も困惑します。ですが、ヒカルの碁の中に佐為はいるのだと悟り、ヒカルが佐為との別れに区切りをつけるシーンは前向きで力強くありました。佐為はなぜ成仏できずずっと現世にとどまっていたのか、そしてどうしてこの時に消えてしまったのか。このヒカルの解釈で佐為の存在が理由づけられた気がします。そしてこの瞬間こそが、この物語の結末を納得させるものとなったんじゃないかと感じました。

 

・北斗杯予選の越智

越智康介はヒカルの一つ下で、マッシュルームヘアーのメガネお坊ちゃんです。気が強そうな見た目通り、かなりの負けず嫌いで年上の院生たちにも挑発的な態度を取ることもあります。プライドは高いですが、棋力も高くヒカルと同期でプロになります。物語の終盤で、北斗杯という日中韓の18歳以下のプロ棋士たちが参加する囲碁の団体戦が開催されるのですが、その日本代表決定戦で越智とヒカルが選手権を獲得します。しかし、ヒカルに敗れた社*3がかなりの実力者で、力の差を感じた越智は代表に決定しているにも関わらず、自ら社に選手権を賭けて再度対局を挑みます。

 

越智はヒカルより年下で見た目も子どもっぽいのですが、プライドがめちゃくちゃ高く誰よりも勝ちに固執しています。ですが、その高いプライドがプロ棋士としても誇りとなっており、強い相手にきちんと勝ってからでないと大会に出場できないと自ら対局を申し込む姿には胸を打たれました。正直、越智は極度の負けず嫌いの子どもというような印象だったのですが、このエピソードでは越智に尊敬の念を抱き、今までの気の強さはただの負けず嫌いではなかったのだということが証明されたように感じました。

 

 最後に

 知ってはいたものの、きちんと読んだことがなかったヒカルの碁。

ここまで胸を打たれる物語とは思いませんでした。スポーツや能力系のバトル漫画ではなく、囲碁という文化系の代表格のような競技でアツい戦いが繰り広げられ、ハラハラドキドキする展開も多かったです。なにより頭を使って静かな炎を燃やしながら高みへと進んでいくヒカルやアキラを始めとする登場人物たちの姿はかっこよかったです。

 

 

 

 

*1:プロ棋士を目指す子どもたち、院生になるにも試験がある

*2:囲碁の強さのこと

*3:やしろ、関西棋院所属のプロ棋士